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[Helly Hansen/へリーハンセン] http://www.goldwin.co.jp/hellyhansen/

文=中村孝則 text by Takanori Nakamura 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

 

2013年8月。僕は、ヘリーハンセンのウエアと一本のルアー竿を携えて、ノルウェーに流れる一本の川を釣り歩きました。VISAという名のその川は、ガイランゲルの氷河の雫を源泉に、リレハンメルの街を通ってオスロ近くまで数百キロかけて流れています。僕は、源流近くからクルマで2日かけて川沿いを走り、ポイントになりそうな場所があれば竿を振りました。狙いは、この川に棲む北極岩魚です。ノルウェーの北極岩魚は、ルビー色の斑点が特徴でブラウントラウトと虹鱒を掛け合わせたような華麗な魚です。日本の岩魚と違って真っ赤な身を持ち、驚くほどに美味しい。地元のレストランに入ると、ムニエルやフリットにして出てきたりして、旅人の密かなごちそうです。そして、大きな声では言えませんが、日本の渓流とちがって、滅法よく釣れます。この2日間の釣果は、尺越えを含め50匹以上になったでしょうか。しかも、こんなに釣れるのに釣り人がいません。これは、どういうわけなのだろうか? ロムという村の朝もやの川辺で、はじめて一人の釣り人に出会いました。その釣り老人が僕に応えてくれました。「ここはいつでも欲しいだけ釣れるからね。必要なときに必要なだけ釣ればいいのさ」。彼はそう言うと、朝食用の一匹を優雅に釣りあげ、そそくさと帰り支度を始めます。帰り際、彼は唖然とする僕に村に伝わるという釣りの極意を教えてくれました。「釣り人というのは、最初はどうしても一匹釣りたいと思うもんだ。次の段階に行くと数を釣りたいと欲する。数に満足したら次は大物を釣りたいと願うのが人の常。では、大物を仕留めた後は、なにを釣ったら満足するかな?」そう問われると、釣り欲というのはきりがなさそうに思う。「それは、景色を釣ることだよ」。仮に一匹も釣れなくてもね。まあ、ガールハントと同じかな。はっはっはと釣り老人は笑いながら悠然と去って行くのでした。その格言が本当に村に伝わるものか、彼の作り話なのかは分かりません。ただ、少なくともその言葉には魚や自然を大切にするノルウェー人の知恵は込められています。そして、気がつけばひとり。僕の目の前には乳白色に輝く川面が遥か山稜へと広がっているのでした。

ヘリ―ハンセンの防水ウエアは、登山家や冒険家あるいは北海油田の従事者といった、過酷な自然環境で活躍する人々から絶大な信頼が置かれています。オーシャンレースやスノーフィールドで戦うアスリートたちにとっても、欠かせない装備として愛されています。その耐水防水の機能性やファッション性の高さから、最近は釣り人の愛好者も増えているそうです。振り返ればヘリーハンセンの歴史は、ひとりの船乗りへリー・J・ハンセンがシーマンのために1877年に立ちあげたブランドです。そもそもが、フィッシャーマンのためのウエアつくりでもありました。そして今日、海に川に湖に、フィッシングはもっと自由で愉しく、そして自然に優しくなれるはず。自然を知り尽くしたブランドだから、サポートできることもあるのです。