StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

◎Juvet Landskapshotell Alstad, 6210 Valldal, Norway TEL +47 950 32 010 email : knut@juvet.com http://www. juvet.com

 

ノルウェーのガイランゲル・フィヨルド付近の山裾の、その話題のホテルの部屋に入った瞬間に、デジャブのような不思議な風景が広がった。壁の一面だけをすべてガラス張りにした設計は、たしかにモダンでクールなのだが、なんだか懐かしく侘びた気分になるのであった。まるで鎌倉あたりの禅寺にいるような、あの気分。そうだ、フレームだ。ガラスを縦型長方形に仕切った、細いフレームワークこそが仕掛けなのだ。
「さては、風景を屏風絵に見立てたな」
実際に、このガラスは屏風の伝統的フォーマットの一隻六扇(六曲)に則って、六枚のガラスに仕切っている。しかもこの風景は、ガラス一枚(一扇)ごとにトリミングされても一幅の絵になるように、緻密な計算が施されていた。明らかに、日本の伝統美を知悉した、カクシンハン的な仕業に違いない。ところが、このホテル「juvet(ユーヴェ)」は、各国の名だラベル誌や建築誌で取り上げられているが、この手のアングル写真をお見かけしたことはない。編集者たちは、そのタクラミに気がつかないのであろうか。
もっとも、このホテルを設計した「イェンセン&スコドヴィン建築設計事務所」の建築家イェンセン氏は、参考とするべき建築として、ルイス・カーンの作品と同じくらい日本の寺社建築——なかでも京都の龍安寺を挙げているほどだから、ノルウェーの風景を禅の石庭に見立てるくらいの仕掛けは、お手のものかもしれない。
仕掛けといえば、この雑誌にも少しばかり謎解きを仕込んでおいた。お気づきかもしれないが、この号の表紙は、このホテル「juvet」の客室を外から撮影したものである。そして、この号の巻頭特集のナショナル・ツーリスト・ルートの「グードブランツユーヴェ」も、「イェンセン&スコドヴィン建築設計事務所」が設計していて、このホテルはその姉妹施設なのである。ナショナル・ツーリスト・ルートのコンセプトは、“自然との調和と体感”であると特集記事でも書いたが、彼らはそれを禅的な侘び数寄感覚で解決しているのだ。告白すれば、そうしたことも、このホテルにステイして目覚めたことなのだが、まさかノルウェーの奥地で眠りかけていた和の美まで解放されるとは思わなかった。