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ノルウェーの「ナショナル・ツーリスト・ルート」(National Tourist Routes)、通称「寄り道プロジェクト」(Detour)の
全線がようやく開通を迎えます。「寄り道プロジェクト」とは、ノルウェーが1990年代から進める、国家的な街道プロジェクト。
その知られざる全貌を俯瞰します。

文=中村孝則 text by Takanori Nakamura

 

「ナショナル・ツーリスト・ルート」とは、ノルウェー国内に、18カ所の観光(ツーリスト)ルートを設け、道路建設や整備とともに、デザイン性の高い建造物や展望台、休憩所をつくり、内外から観光客を誘い込もうというものです。道路建設や公共事業と観光開発が、国レベルで共同運営しているというのがユニークなポイントです。観光事業はノルウェーにとって、石油・ガス開発、漁業に次ぐ、国内第三の主要産業へと成長しつつあります。そのために道路や景勝地の開発と整備などは、さしせまった課題でもありました。そこでノルウェーでは、観光誘致をハコモノ的な発想やバラマキ的な公共事業ではなく、“デザイン”をテーマにしたのです。まもなく、その全18ルートは完成を迎えますが、その画期的な取り組みに各国から熱い視線が向けられています。
18の寄り道ルートはガイランゲル・フィヨルドや、トロルスティ—ゲンといった、いずれもノルウェーを象徴する氷河や大瀑布、景勝地につくられています。たとえばガイランゲル・フィヨルドでは、水面から標高500m付近に、コンクリート打ちっぱなしのモダンな展望台(下の上段右の写真)を設置しています。しかも、空中に迫り出したフロアの柵は腰の高さしかなく、細いスチールとワイヤーのみで構成されています。一歩踏み越えれば落ちそうな臨場感は、訪れる者をスリリングに刺激します。と思えば、脇にはイエローのアクリルで作られた人工的な滝がつくられ、氷河から溶け出した川が眼下まで流れ落ちています。まるで建築物そのものが、モダンな現代アートのようでもあります。しかし、日本の観光名所であれば必ずありそうな、ご当地グルメの出店やゆるキャラの看板などはありません。だからこそ、コンテンポラリーな造形と絶景がシンクロし、独特の景観と体感を産み出しているのですね。

このルートだけでも「寄り道プロジェクト」そのものの革新性やオリジナリティの高さを推察することができるでしょう。実際の開発を進めるにあたっては、プロジェクトごとに入念なコンペが行なわれ、建築家やデザイナー、アーティストなどの建築関係者が選出されました。コンペの審査基準は、環境に配慮することやデザイン性に溢れていることはもちろんですが、面白いのが「大自然をどれだけ体感出来るか」という項目が設けられていることです。コースごとに「崖のすぐ目前まで」とか「なるべく滝のそばへ」、「自然の傾斜のまま歩く」など具体的な課題が与えられました。もっとも、日本であれば“危険だから”とか“不便そうだから”という理由で、建築許可すら下りそうもない建造物も少なくないでしょう。しかし、ノルウェーでは、日本よりはるかに自己責任の考え方が徹底しているのです。ツーリズムにとって娯楽性と安全性への配慮は、諸刃の剣ですが、このプロジェクトは、そうした哲学的なテーマにも踏み込んでいるのが特徴です。開発にあたってはデベロッパーや建築家だけでなく、考古学者や生物学者やランドスケープアーキテクトといった各分野のエキスパートがタッグを組んで、時間をかけて進めています。
そのために、国は法的なインフラ整備を行なって後押ししてきました。1995年に公共の美的レベルに関する指針が示されて、1997年には環境に対して美的でない建築や建造計画に、地方自治体が却下できる法律まで整備しています。ノルウェーでは、所有者の公私にかかわらず、公共や美観を優先させるというポリシーが徹底されているのです。「寄り道プロジェクト」が、デザイン性の極めて高い建造物をつくれるのは、そうした背景もあるようです。
折しも、公共事業による開発に大きく舵を切り直した我が国、日本。ノルウェーの「寄り道プロジェクト」の筋道の通し方は、大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

 

◎Askevågen, Atlanterhavsvegen
(アスケヴァゲン/アトランテルハヴスヴェーゲン)

建築家 : 3RW-Jacob Røssvik
防波堤の先端に建造され、
海に浮いているような感覚で360度パノラマな景観を楽しめる。

◎Trollstigplatået, Geiranger-Trollstigen
トロルスティグプラター
(ガイランゲル/トロルスティーゲン)

建築家 : Reiulf Ramstad
川に浮かぶモダンな建築物は、
暖炉付きの洒落たカフェ。計算しつくされた建造物。

 

◎Ørnesvingen, Geiranger-Trollstigen
オルネスビンゲン
(ガイランゲル/トロルスティーゲン)

建築家 : 3RW-Jacob Røssvik
イーグルロードと言われるヘアピンを登りきると、
圧巻の景色が待っている。
ワイヤーだけの柵がノルウェーらしい。

 

◎Trollstigen, Geiranger-Trollstigen
トロルスティーゲン
(ガイランゲル/トロルスティーゲン)

建築家 : Reiulf Ramstad Arkitekter AS
ヘアピンカーブが続くトロルスティーゲンの展望台。
地形にあわせて断崖絶壁に設置されている。

 

◎Gudbrandsjuvet, Geiranger-Trollstigen
グードブランツユーヴェ
(ガイランゲル/トロルスティーゲン)

建築家 : Jensen and Skodvin
谷に迫り出した遊歩道では、滝が岩の間に
落ちていくさまを間近で感じられる。

 

◎Stegastein, Aurlandsfjellet トステガステン(アウルランフィヨルド)

建築家 : Todd Saunders/Tommie Wilhelmsen
フィヨルドの上に30メートル突き出ているので、荘厳な景色を一望できる。