StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

『叫び』という強烈な作品が独り歩きし、ムンクは苦悩する謎めいた画家、というイメージがありました。
しかしよく知れば、苦労して良き人生を得て芸術面でも大成し、現代美術に大きな影響を与えた極めて重要な画家だったことがわかります。
2013年はムンクの全貌を知る好機、生誕150 周年を迎えます。

文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

 

ノルウェーを代表する画家エドヴァルド・ムンクは来年、生誕150周年を迎えます。これを機に、オスロのムンク美術館はウォーターフロントの再開発地区に移転して開館するなど記念行事も盛んに行われる予定です。ムンクは近代の西洋画家としては日本でも圧倒的に有名です。それはあの『叫び』という強烈な作品ゆえでしょう。しかしムンクの芸術は『叫び』だけではありません。人間存在の心理的・内的緊張や不安を表現して現代絵画に深い影響を与えたムンクを知る、またとない美術館の展示室が日本にあります。東京・丸の内の出光美術館は、オスロのムンク美術館と長年にわたり友好な関係を築き、18年ほど前から毎年3点のムンク作品が海をわたって長期貸出され、日本にいながらムンクの未知の魅力を発見できる場となっています。
出光美術館とムンクの繋がりは、出光グループが1987年から北海エリアを中心とした石油開発活動を行うなか、文化面でノルウェーへの協力体勢をとると決めたことに端を発し、以来20年にわたり、ムンク美術館への支援を行ってきました。長い友好関係の幕開けは1993年、出光美術館で開催された大規模なムンクの展覧会「ザ・フリーズ・オブ・ライフ-愛と死」でした。あの『叫び』が観られる!と話題を呼び、美術館のビルを取り巻くほどの入場者を集め大成功の展覧会となりました。当時その展覧会も担当した出光美術館の学芸課長代理、八波浩一さんにムンクの魅力を聞きました。「ムンクは白樺派の時代から日本に紹介され、セザンヌやゴッホと同様、知名度が高い画家でした。その作品には、当時の急速に都市化する社会の中での人間の苦しみや孤独が表現され、一方、誰もが体験する愛や死といった普遍的なテーマも描かれ、時代や国を越えて100年後を生きる私たちにも共感できる魅力があります。ギリシャなど西洋文化への知識や素養がなくとも、誰にでもわかり共鳴を呼ぶ絵画です」。ムンク作品に漂う不安感や陰鬱さも、日本人の心根や情緒に訴える魅力があるようです。人間の欲望、不安、恐怖、嫉妬、孤独、死など内面的主題を描き、一時的に神経病になっても、ムンクは苦労して良き人生を得て大成した芸術家でした。パリに学びベルリンで活動し、人生の後半は故郷ノルウェーで過ごしました。最初は印象派風の絵を描いていましたが、自分の経験を芸術に反映させる時代を迎え、荒々しいタッチと色、内面的な主題で『叫び』に代表される独自の画風を打ち立てて象徴派、ドイツ表現主義の先駆者となり、80歳まで生き、巨匠として人生を閉じました。出光美術館の専用の展示室にはムンク美術館の協力によって毎年3点ずつのムンク作品が紹介され、毎年9月~翌年8月まで展示されます。ここでムンクの未知の作品を眺めるのは、極めて刺激的で幸福な体験です。今年度は1890年代の『叫び』に代表される、ムンク独自の絵画様式確立へ向かう時期を物語る3作品が展示されています。「見えざる何か」を表現するようになった画家の画風形成期の作品を楽しみましょう。さて、絵画『叫び』は4種類あり、そのうちの1点が今年5月にニューヨークでオークションにかけられ、競売の美術品としては史上最高額の約1億1992万ドル(約96億1200万円)で落札されました。この売上金は来年開館予定のムンク美術館の設立に使われるそうです。来年のオスロはムンクの魅力が再発見され、嬉しくてすてきな『叫び』に満ちることでしょう。

 

◎オスロ市立ムンク美術館

Tøyengata 53, 0577 Oslo TEL.+47 23 49 35 00

http://www.munch.museum.no

9月〜5月 火曜日から土曜日 10:00〜16:00 日曜日 10:00〜17:00 月曜休館
6月〜8月 毎日 10:00〜17:00
入館料 : 大人95クローネ/学生および67歳以上 50クローネ/16歳未満 無料

 

 

左から『叫び』1893年 「自然を貫く果てしない叫び」に怖れおののき耳を塞いでいる様子を描いている。/『不安』1894年/『絶望』1893年 いずれも「生命のフリーズ」と呼ばれる連作の代表的な作品。

オスロ市立ムンク美術館所蔵 ©Munch Museum/Munch-Ellingsen Group/BONO, 2012

絵画、版画、ドローイングなどムンク作品を多数所蔵するムンク美術館は、来年50周年を迎える。併設のムンクカフェではスクリームケーキも販売。

 

出光美術館 展示作品

『白いブラウスを着たインゲル』 1891年

オス立ロ市ムンク美術館所蔵
©Munch Museum
Munch-Ellingsen Group/BONO, 2012

出光美術館 展示作品

『秋』 1897−1898年

オスロ市立ムンク美術館所蔵
©Munch Museum
Munch-Ellingsen Group
BONO, 2012

出光美術館 展示作品

『ヴェランダにて』 1892年

オスロ市立ムンク美術館所蔵

©Munch Museum

Munch-Ellingsen Group

BONO, 2012

◎出光美術館

国宝2件、重要文化財52件を含む1万件におよぶコレクションを所蔵する出光美術館。
1993年に「ムンク展 ザ・フリーズ・オブ・ライフ-愛と死」を開催したことを契機に、
毎年3点のムンク作品をオスロのムンク美術館から貸与され、公開展示している。
現在の展示作品は『叫び』に代表されるムンクの絵画様式確立へ向かう時期の状況を物語る
1890年代に描かれた作品。
東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
ハローダイヤル 03-5777-8600(展覧会案内)
10:00〜17:00 金曜日は19:00まで開館(入館は閉館30分前まで)/月曜休館
入館料 : 一般 1000円/高・大生 700円/中学生以下 無料(要保護者同伴)